5月もまもなく終わりを迎えますね。5月といえば、多くの学校で「春の遠足」が行われるシーズンです。新しいクラスでの親睦を深めるための、日本の伝統的な学校行事ですが、ここで起きる論争があります。
遠足のおやつは200円までです。
先生!おやつ代の200円って、ショーヒゼイ込みですか!? 抜きですか!? 抜きですよね!?
必死な眼差しで詰め寄ってくる子どもたち。
この「遠足のおやつ代200円に消費税は含むのか否か問題」、大人はつい笑ってしまいますが、私はこれこそが子どもにとって究極の「自分事」であり、最高の「生きた金融教育のチャンス」だと考えています。
今回は、遠足のおやつ選びを通じて子どもたちが学べる、お金の本質についてお話しします。
「ショーヒゼイ」って何?いくら?から始まる学び
まず前提として抑えたいのが、”消費税”ではなく”ショーヒゼイ”というところです。この論争の中心である全国の小学生たちの99.99%は消費税が何なのか知らないことでしょう。小学校の高学年くらいであれば、漠然と”税金”という存在を知っているとは思いますが、低学年であればショーヒゼイというただの暗号であり、なぜか値段がちょっと上がるよくわからないルールです。
- 10円のチョコを20個買ったら200円と算数では習う。
- でもレジに行くと「216円です」と言われて買えない。
この絶望を味わう(あるいは事前に察知する)ことで、言葉だけは知っていた「消費税」という存在が、一気に自分事として迫ってきます。
そして子どもの頭の中には、
「なんかしらんけど、とにかくお菓子をいっぱい買いたい」
これにつきます。この熱意を子どもの成長に使わない手はありません。計算ドリルの10倍は頭がはたらきます。
端数の計算を「面倒くさい手間」と捉えて大人が一律でルールを決めてしまうのはもったいない。これこそが、社会の仕組みと算数が結びつく「本気の計算チャンス」であり、「学習成果を発揮するチャンス」であり、「思考力発揮のチャンス」であり、「課題解決のチャンス」であり、「200円ギリギリを攻めるバトル」なのです。
地域の「駄菓子屋」という最強の教育環境
昔は、税抜き価格で10円や15円などの手書きの値札のついた駄菓子屋さんがいっぱいありました。今思えば、あれは最高の学び場(聖地)です。
駄菓子屋の店主(神)は、子どもたちの計算ミスや予算オーバーに対して、時に優しく、時に厳しく寄り添ってくれます。交渉して、200円ちょっきりにしてもらったこともありました。
「これだと5円余る」「じゃあ、こっちの25円のチョコに変える!」といった、予算内での「トレードオフ(二者択一)」の経験は、電子マネーの決済では絶対に味わえない、泥臭くも貴重な金融感覚を育ててくれます。
神(店のおばちゃん)に交渉して3円まけてもらったあの経験も、コミュニケーション力・交渉力などが鍛えられました。
お菓子交換から学ぶ「等価交換の法則」
遠足のもう一つの醍醐味が、現地での「お菓子交換」です。
お菓子交換は経済活動です。
- 「俺のガム(20円相当)と、お前のポテチ(60円相当)交換して!」 ➔ 「それは価値が合わない。そのガムなら3つはもらわないと」と気づく
- 「この150円で買った甘酸っぱいグミ、おいしすぎる。トレードでいろんなお菓子が食べられるな・・・」 ➔ 「いろんなお菓子を食べる方法は、200円で買うことだけが全てではないと気づく」
- お菓子の話題やトレードでコミュ力も育つ
自分が持っているものの価値と、相手が持っているものの価値を天秤にかける。これはまさに、経済学の基本である「等価交換」や「価値のトレード」を五感で学ぶ瞬間です。毎日お菓子、となるとそんな感覚も薄れますが、たまのお菓子であり、200円という制限があったために、自分事として本気で考える最高の教材です。
学年別に求める「遠足の金融教育」のゴール
私は、子どもの発達段階に応じて、この200円の使い道のゴールを変えてもいいと考えています。
小学生低学年に求めること:【予算の絶対遵守】
低学年のうちは、「決められた予算(200円)を超えたら、どんなに欲しくても手に入らない」という絶対的なルール(有限性)を理解することがゴールです。学年的にも、お小遣いというものを与えられていないケースもあるでしょう。我慢と、その中での工夫の第一歩です。200円ギリギリを攻められるようになれば完璧ですね。195円以上を目指したいものですが、駄菓子屋全盛期の昔であれば200円ちょうどで買えたものです。
そして、子どもがルールを守って、遠足が楽しいものであったのであれば、それはもう成功かと思います。買ってきたお菓子を並べ、なんでこのお菓子を選んだのか、理由を聞くとたくさんの思考の過程を話してくれることでしょう。
小学生高学年に求めること:【満足度の最大化(ポートフォリオ)】
高学年になったら、単に200円に収めるだけでなく、「どう組み合わせたら、自分の遠足が一番ハッピーになるか」を戦略的に考えさせます。 「量より質(高いチョコ1個)」で行くのか、「質より量(うまい棒の複数攻め)」で行くのか。さらにそこから、いかにトレードで満足度の高いお菓子戦略を組むのか。これは、大人が限られた給料を生活費や投資、娯楽にどう配分するかという「資産配分(ポートフォリオ)」の考え方そのものです。
ないとは思いますが、究極「先生、昨今は物価高やインフレの影響があり、200円では昨年の150円分のお菓子しか買えません。250円分まで許可してください」なんて言い出したら最高ですね。学びを活かして、交渉をする。生きる力ですね。
まとめ:子どもが本気で頭を使う教材
たかが200円、されど200円。
親が代わりに計算して買い与えたお菓子セットには、教育的価値は1円もありません。子どもが頭を悩ませ、笑顔で遠足を楽しむ過程にこそ価値があります。子どもにとって、この200円は、教科書上の無機質な数字の計算問題ではなく、自分ごとである正解のない計算問題であり、教科書では絶対に教えられない「生きる経済学」が詰まっています。
学校現場でも、家庭でも、この「消費税込みですか!?」や「上限を上げてください」という言葉が飛んできたら、ぜひニヤリと笑って”さぁ次の学びは・・・”と考えてみてください。どんな問いかけであっても、子どもの頭は本気モードです。子どもが考えるものであれば、それはなんだって成功だと思います。

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